積読と積みゲーの狭間で

ラノベブログになる予定だった何か。

『ただし、無音に限り』/織守きょうや

 

 

 

ただし、無音に限り (ミステリ・フロンティア)

ただし、無音に限り (ミステリ・フロンティア)

 

 

 疑いを差し挟む余地のない、資産家の老人の死。しかし彼の娘は、財産の大部分を相続する中学生の孫に疑惑の目を向けた。あれは本当に自然死だったのか? すでに遺体は荼毘に付され検視は不可能、疑惑を解決するための困難極まりない調査は弁護士を介して特殊能力を持つ私立探偵に持ち込まれた。その探偵が――俺だ。

 

 

角川ホラー文庫刊『記憶屋』が大ヒットした織守きょうや先生の新作です。「執行人の手」「失踪人の貌」という中編小説二作によって構成されているミステリーでした。無音の部屋で被害者の霊の存在を感じ取り、さらに生前・死後の意識を読み取る探偵が主人公です。霊は出てきますが、ホラー的な要素は皆無だと思ってもらってもいいでしょう。

「執行人の手」

二作のうち、僕が評価したいのはこちらです。

 

 

 

あらすじで説明されているのはこの「執行人の手」で、この作品は何よりも老人の孫である羽澄楓にスポットライトを当てられています。

主人公である春近は、一体老人を殺したのは本当に楓なのか、あるいはどうやって老人を殺したのか、悩みながら推理を展開させていきます。楓という人物に触れあって、さらに春近が苦闘する様が僕としては心打たれました。終盤には綺麗にはまった歯車が回り出すような推理が披露され、ロジック・キャラクターがいい着地を見せました。

「失踪人の貌」

一方で、こちらは少し期待外れな仕上がりでした。

物語は、自殺したはずの夫の死体を見つけてくれという依頼を受けた春近が、その夫が失踪したという場所を赴くも、捜査の途中であり得ないところに立つ霊を見つけたことから、物語は二転三転し、やがて殺人の可能性が浮上する……という話です。

正直言ってしまうと、この作品は中編小説というよりかは短編小説向きの題材だったのではないかなと思います。物語は確かに二転三転していくのですが、にもかかわらずどこか起伏の乏しさを感じてしまいます。主人公が霊の行動を上手く把握できていないせいで、話の展開が滞り、さらに小刻みに場面を転換するせいか、読んでいて少し冷めてしまう部分もありました。もう少し小さくまとめることができれば、意外性のあるミステリーだとは思うのですが、オチもさほど劇的な衝撃として受け取れなかったです。

 

 

類似作品として挙げられるのは探偵・日暮旅人シリーズでしょうか。第一話「執行人の手」だけを見れば、いわゆるあやかしカフェのほっこり事件簿のような要素も見受けられます。

強烈なトリックをお見舞いする一作ではないですが、続編を書いていくうちに安定感が出ていきそうなシリーズでした。